Erik Satie (エリック・サティ)についてまとめています。

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サティ的コラム

「星たちの息子 全曲版」高橋悠治さんによる日本初演について


2012.3.17 16:00-17:30高橋悠治さんにより、ご自身の自作曲とともに、サティの「星たちの息子」全曲版の日本初演が東京のスタジオイワトで行われました!

「星たちの息子」と言えば、サティ・ファンなら、まず「星たちの息子のための3つの前奏曲」が思い浮かぶと思いますが、同じモチーフは使われるものの別の時期に作られた曲。長い間未出版で、世界的な初演は1989年でした。


全曲は、「3つの前奏曲」を含み

第1幕への前奏曲
第1幕 使命~カルデアの夜
第2幕への前奏曲
第2幕 入信~大寺院の地下の大広間
第3幕への前奏曲
第3幕 呪文~パテシ・グデア宮殿のテラス

という構造で、(テンポにもよりますが)全曲で1時間程度かかります。


ややこしいことに、ペラダンによる神秘劇「星たちの息子」に使われたのは、前述の「星たちの息子のための3つの前奏曲」の部分であり、今回日本初演された「星たちの息子」全曲版の3つの前奏曲以外の部分は、劇には使われていないという;。所謂、後付けで作られたものなのです。

神秘劇の内容は「(前略)羊飼いの子がエメラルド碑文を詠み、魔法のリラをもらって星たちへの祈りをうたう詩人=音楽家となり、父の反対とさまざまな生涯をのりこえて、大魔術師の娘と結婚するまでを物語るサロン演劇。」(パンフレットより引用)であり、高橋悠治さんによると、モーツァルトの魔笛に似たストーリーだそうです。

曲は、サティらしいパッチワークのようなコラージュ的構造を持ち、当時としては新しいハーモニーを多用。多分に神秘主義的で、「3つの前奏曲」がお好きな方なら、全曲版の方もお気に入りいただけるのでは。(リュビモフと言う人がCD出しています。PASSACAILLE965)

途中、グノシエンヌ第7番(もしくは梨の形をした3つの小品 始め方」が現れるのも、サティ・ファンとしては楽しいです。

そうそう、高橋悠治さんは曲の合間に丁寧な解説を交えてくださったのですが、「聞いたことがある部分があったと思いますが、グノシエンヌ第7番が使われている部分があります。」のような解説がありました。その後、「梨の形をした3つの小品とも同じです。」のような補足がありましたが、グノシエンヌ第7番の方が先に解説に出てきたことが興味深かったです。グノシエンヌ第7番を録音していないサティ弾きの方も、録音の時期の関係で6番までしか録音していないだけで、第7番もグノシエンヌとして認めているものなのですね。サティ・ファンの方からたまに、「グノ7は本当のグノシエンヌではないんじゃない?」みたいな意見を聞くことがあるので、今度そのような話題が出た時に、話の種にしてみます。

さて、実際に全曲版を使って劇が上演されることはなかったとはいえ、全曲版も劇のために作った音楽ということにはかわりはありません。でも、劇の内容を知っている状態で音楽を聴いても、どれがどの場面なんだろ…というのは、まったくわからないとのこと。それも当然で、サティは「劇につける音楽は背景と同じ」というスタンスの持ち主で、盛り上がる場面でも背景の木が変わったりしないのが一般的なのと同様、音楽も場面によって左右されてはいけない!という考え方を持っていたのです。今の映画音楽の考え方に、真っ向から反対していますね(^^;。

高橋悠治さんの演奏は、今までに出しているサティCDの演奏から予想がつく通り、あっさりとした感じでした。盛り上がりを作って聴衆をひきずりこむ…というタイプではないのですが、このような曲によく合っていて、とても気分よく聴けました。CDよりは豊かに響かせているように感じられましたが、これはやはりCDでは録音の仕方や録音後の調整が大きなファクターとなっていることによるようです。

引き戸一つを境にして外の世界と隔絶された小さな空間…観客50人がぐるっとグランドピアノを囲み、神秘主義的なこの曲に只管真摯に耳を傾けているという不思議な空間は、日本初演であることなどはどうでも良くなってしまうほど素晴らしく、本当に聴きに行ってよかったと思ってます。



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