Erik Satie (エリック・サティ)についてまとめています。

エリック・サティ うぬぼれ少女百貨店


サティ的コラム

ヴェクサシオン完奏の感想


「ヴェクサシオン」というタイトルののサティの曲があります。これは世界一長い曲としてそこそこ有名で、全部演奏するには18時間〜24程度かかります。リピート無しの1回は短いのですが、840回通して弾くことを薦めるような表記が楽譜中にあるのです。

さて…私はさすがに1人で全部弾いてみようと思う程チャレンジ精神は旺盛ではないのですが、数人で交代して840回弾ききるというイベントになら、参加したことがあります。2004年の8月のことです。その時のことを、日記を読んで思い出しつつレポートしてみます。(追記:2015年5月にも同様のイベントがあり、一部参加しました。ただし、こちらは低音のバスパートを省略するやり方なので、トータルで半分くらいの時間で終わりました。)



ピアノ関係の友達に誘われて、ヴェクサシオンを840回弾ききる!というイベントに参加することになりました。昼頃から、次の日の朝までかけて完奏する、ということなのですが、興味がない人から見たら…いや、興味がある人から見ても「何だよそれ!?」って感じですね。

何が悲しくてこんな慌しいご時勢に、この単調な曲を840回も繰りかえさきゃいけないのか…大半の人はそんな感想を抱くんだろうなー、などと思いつつも、個人的には前の日の晩からわくわくドキドキしていた覚えがあります。(当時は今みたいにサティに入れ込んではいなかったのですが、それでも。)

さて、昼11時から演奏開始ということなのですが、都合によりちょっと遅れてスタジオに入ります。そーっと入ってみると…ぉぉ、やってるやってる!何人かが、(ピアノが置いてある)地下からの螺旋階段にくねくねまきついています!これは、演奏者とは別にダンサーとして参加している人たち。ヴェクサシオンに合うダンスとなると、やはりこのくらい前衛的なものになる…ということでしょう。しかし…私は全然ダンスには詳しくないのでわからないのですが、普通「ダンス」と聞いてイメージするようなものと甚だしく乖離していて、これは本当にダンス?とびっくりしました。でも、普段からダンスを習っている人たちばかりを集めていたので、これはこれで紛うことなくダンスなのでしょう。

螺旋階段にまきついていた人たちが離れた隙を見計らって、地下のピアノ室に降りていきました。思っていたより人がいっぱいいて、かなり女性の方が多かったです。ダンサーの方もほとんど女性。ただ、あとでわかったのですが、サティが好きな人の集まりというわけではなかったようです。ただただ840回弾くというイベントに参加したかったということ。どちらにしろ、サティのユーモアがわかる人たちと、長い時間を共有することになったのは、自分にとってとてもプラスになりました。まぁ、入ってきたばかりのこの時点ではそんなことも考えていませんでしたが。

前の人が疲れてきたら適度に交代…のようにして、自分の弾く番がまわってきました。実は、ピアノ弾きとして集まってきたのは、ピアノの先生や、その先生についてピアノを専門でやっている人がほとんど。私みたいにただの趣味で弾いてる人なんて、ほとんどいませんでした。というか、この時点では皆無でした。だから余計に緊張しちゃいました。間違いまくっちゃわないかなー…とか。でもノーミスで完奏するのが目的ではないし、ほとんど練習してきてないような人も多かったようなので、そんなに緊張する必要はなかったようです。自分はこの最初の回は、10回も弾かずに次の人に交代しました。この時点ではまだヴェクサシオンならではの面白味はそこまで出てきていません。

そして、ダンサーの方はと言うと…相変わらず音楽同様前衛的に踊って(?)いました。階段をかこむように丸く椅子を並べてその上をゆっくり歩いたり、カーテンの裏を歩いたり、ものすごくゆっくりアドリブで踊って、そこに私もまきこまれていっしょに踊ったり…。私が弾いてる時だけ熊のぬいぐるみでつつかれたりもしました;。

そして、夕食までにも私も10回を一組として何回か弾きました。何人か交代して弾いている間にみんなで食べるのは楽しかったです。お酒もおいしかったし。こういうイベントに参加する人っていうのは、サティなど抜きにしてもけっこう似ているところがあるんですよ。だから話も自然と弾むのです。

そして、ヴェクサシオンならではの面白味が顔を出し始めるのが夜です!昼の雰囲気と夜の雰囲気は違いますし、徹夜状態で弾くなんてことも普段はなかなかありません。人気(ひとけ)も減り(それでも思っていたより多かったですが)、なんとなくさびしい雰囲気と、ヴェクサシオンの無限とも思える怪しいメロディーの繰り返しに共通点が見出せるようになってきて、眠気との戦いも始まると…ここからが本当のヴェクサシオンです。この空間は普通は味わえません。うまく言葉で説明することすらむずかしいですが…。

で、私もかなり弾いて、朝4時前に交代して、そのまま夢の中へ…。

肩を揺さぶられて起きる。あと数回で完奏とのこと!!最後を飾るのは、途中参加の男性。後何回コールが起きる。そして…朝5時半、完奏です!!しばらくの間、みんなの拍手が湧きやみませんでした。ものすごい感動の渦につつまれました。みんなで一つの大きなイベントをなしとげたという達成感…。たとえそれが一般的に「不毛」だと感じられることだとあったとしても。

どうして、このような一見「不毛」なことで、感動が沸き起こるか、不思議に思われるかもしれません。しかし、18時間半越しの演奏は、参加者のみなさんにとっては、きっと不毛なことなどではなかったのです。それは…参加者にしかわからないことだと思います。

なので、ピアノ弾ける方は機会があったら是非参加してみることをお奨めしますよ!




カウンター